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サクリファイス

【著者】 近藤 史恵    【装丁】 新潮文庫 290頁
【価格】 438円+税    【発行】 平成22年2月

白石誓は、高校陸上界で名の知れた中距離走者であった。インターハイで優勝し、次回オリンピック代表を期待されていたが、彼自身は勝つためだけの走りに疲れていた。サイクルロードレースを知ったのはそのころである。
サイクルロードレースはちょっと不思議な競技だ。団体競技にもかかわらず、優勝者として名前が残るのは個人である。チームのうちの一人がエースで、他の者たちはアシストという役割を務める。チームが目指すのはエースの総合優勝だ。エースを勝たせるために、アシストは補佐役に徹する。これがロードレースの特異にして最大の特徴である。
白石は、自分が勝つためではないアシストというシステムに惹かれて自転車競技に転向する。
しかし、実際にチームに身をおいてみると、エースとアシストの立場は微妙である。
白石が所属するチーム・オッジのエースは石尾だが、すでにピークは過ぎている。彼には、自分の地位を脅かす若手、袴田を事故に見せかけて再起不能にしたという黒い噂があった。そういう事情を承知で次期エースの座を狙う伊庭、アシストの役割に徹し、スペインチームからのオッファーを受ける白石、石尾に疑念を抱くチームメイトなど、メンバーそれぞれの思惑が交錯する中で次の事故が起きる。
日本では馴染みの薄いロードレースというスポーツの魅力を読者にアピールする著者の力量はあなどれない。
ちなみにサクリファイスとは“犠牲”という意味らしい。




2011.7.22

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