このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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ジーン・ワルツ
【著者】 海堂 尊 【装丁】 新潮文庫 330頁
【価格】 476円+税 【発行】 平成22年1月
顕微鏡下体外受精のエキスパート、帝華大学の曾根崎理恵助教を“講師”に産婦人科の抱えている問題を明らかにする。
まずは、地方医療の崩壊である。思えば40年前、世は第2次ベビーブームを迎え、町の産婦人科医は繁盛を極めていた。個人医院でも設備やスタッフが整っていて、妊婦は安心して出産に臨むことができた。それが今や地方の病院の医師不足は深刻で、とりわけ産婦人科医が払底している。
理恵は、厚生官僚による医療行政の過誤を訴える。これはもちろん、作者が理恵の口を借りて自身の考えを訴えていることにほかならない。
もうひとつの論点は、妊娠に関する倫理の問題である。医療技術の発展はめざましく、今や体外受精はもとより、代理出産まで可能になっている。ところが、法律はこうした事態を予想しておらず、今日に至ってもなお有効な対応のできないのが現実である。
子どもに恵まれないながらも子どものほしい夫婦がいて、それを支えるに足る技術がある以上、この問題の結論は簡単にはでないかもしれない。
理恵は大学での研究のほか、閉院間近のマリアクリニックで5人の妊婦を診ている。年齢も境遇も違う女たちは、それぞれの事情を抱えている。
出産というごく日常的に見える現象が、実は奇跡の連続であるという、男性も是非承知しておかなければならないことが詰まっている一冊である。
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