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ミッキーマウスの憂鬱

【著者】 松岡 圭祐      【装丁】 新潮文庫 276頁
【価格】 438円+税       【発行】 平成20年9月

東京ディズニーランドの舞台裏(バックステージ)で働く若者の青春群像である。施設などの名称は実在のものが多いが、あくまでもフィクションで、実在の団体名、個人名、事件とはまったく関係ない、との断り書きがある。なんともまぎらわしい設定だが、それなりに興味をそそられる。
後藤大輔、21歳は派遣社員で、東京ディズニーランド準社員の採用試験を受けにきた。実技試験ではジャングルクルーズの船長役を演じるのだが、どうもうまくいかない。続いて行われた面接もうまくいったとは思えないが、それでも“ヴィソーブ”配属、ということで採用された。
物語は、後藤が勤め始めてから3日間の出来事を描いている。
期待して仕事についた“ヴィソーブ”とは、何のことはない美装部という部署で、パレードやショーに出演するキャストに着ぐるみを着せたり脱がせたりする裏方だ。力仕事だけに人手不足ということらしい。気がつけば自分を面接した早瀬という男も美装部所属の準社員で、たいした地位ではないことが分かった。
およそ、東京ディズニーランドでは、正社員と準社員との間に歴然とした壁があり、しかも準社員のなかでもランクが細かく分かれている。それでも「TDLで働きたい」という若者は後を絶たず、かなり厳しい条件でも人はやってくる。
後藤が勤め始めた初日、着ぐるみが紛失するという事件が起きた。ダンサー試験に何回も失敗している準社員の藤木恵里に思いもよらぬ疑いがかかる。逆恨みではないか、という思い込みによるものだ。後藤は、何とかその疑いを晴らしたいのだが、準社員に責任を押し付けたい正社員の妨害で、なかなか動きがとれない。しかし、それでひるむような後藤ではなく、彼の果敢な行動で事件は解決し、準社員の意識に変革をもたらしていく。
TDLが好きという若者と、そういう若者を最大限に利用しようとする経営システムがある。こうした構造をどうとらえるか、これは読者各自の判断に委ねるしかない。






2011.8.14

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