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海の史劇

【著者】 吉村 昭        【装丁】 新潮文庫 672頁
【価格】 819円+税      【発行】 昭和56年5月

日露戦争の山場、日本海海戦のドキュメントである。
[海戦前]
明治37年9月5日、フィンランド湾の奥にあるクロンスタット港は、ロジェストヴェンスキー司令長官率いる第2太平洋艦隊を見送る群衆でひしめきあっていた。
陸海ともに劣勢にある戦局を挽回すべく、ロシアが打った究極の手がヨーロッパから極東への大艦隊の回航である。ロシア海軍は当時世界一といわれた。この新艦隊にしても戦艦8隻を主力におよそ50隻で編成されている。
一方日本は、旅順攻撃に手を焼いていた。旅順艦隊を湾内に押し込めているとはいえ、この地を制圧しない限り、第2太平洋艦隊と戦いようもない。
乃木将軍の拙劣な指揮で、死者は増えるばかりである。
この間、第2太平洋艦隊は喜望峰回りでやってくるのであるが、友好国であるフランスの植民地で思うような石炭補給ができず、また赤道直下の暑熱で乗組員が消耗するなど、苦難の航海を続けていた。
さて、旅順の情勢は、乃木の拙攻を見るに見かねた児玉源太郎の指揮で攻略が成功し、ロシア艦隊を迎え撃つ態勢ができあがった。
[海戦]
東郷平八郎率いる日本艦隊は、ロシア艦隊が朝鮮海峡を通過するものと狙いを定め待ち受けていた。日本主力艦隊は44隻で隻数自体はロシア艦隊と遜色ないが、戦艦は4隻しかなく小型艦が多いため、戦力の差は歴然としていた。
そこで東郷司令長官がとった戦法が、世に名高いT字作戦である。
さて、海戦の様子は本書に詳しいので自分で確かめてほしい。映画を見るような大スペクタクルが展開する。
[海戦後]
アメリカの斡旋により、ポーツマスで講和会議が開かれることになった。
小村寿太郎は、戦勝国の全権であるにもかかわらず気が重い。日本には戦争継続の力はない。それを見越してロシアの態度は強硬であるに違いなく、国民の期待に応えることは不可能だ。それでも何とか話をまとめなければならない。双方どこまで譲歩できるか。
会議は決裂寸前までいってしまう。




2011.9.15

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