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破戒

【著者】 島崎 藤村     【装丁】 新潮文庫 425頁
【価格】 440円         【発行】 昭和29年12月

明治時代末期の北信が舞台である。
飯山の小学校教師・瀬川丑松は被差別部落の出身ながら、その事実を隠して生きてきた。
父は丑松が幼いころ故郷を捨て、息子が成長してからは山奥の牧場で牧夫となって隠者のような生涯を送っている。その父から丑松は、世に出て身を立てるためには「素性を隠せ」と強く戒められてきた。
師範校の同級生で寝食をともにし、今は同じ学校に奉職する親友の土屋銀之助にも、このことについてだけは打ち明けていない。
一方で丑松は、猪子蓮太郎という思想家に強く共鳴している。自ら部落出身であることを明らかにし、書物を著すだけでなく積極的に政治活動をするなど、丑松からみれば眩しい存在である。
丑松の心の中では、自分の出自について、「隠さなければならない」という気持ちと「明らかにして堂々と生きたい」という気持ちがいつも交錯している。
時に、父が亡くなったという知らせが届く。世話をしていた牛が暴れたための事故だったという。
丑松は亡き父のもとへ駆けつける汽車の中で、代議士志望の高柳利三郎を見かける。この高柳という人物、選挙資金目当てで上田近くの被差別部落の富豪・六佐衛門の娘を嫁に迎えるための旅立ちだった。
そして悪いことに、帰路も花嫁連れの高柳と同じ汽車に乗り合わせてしまう。
飯山に帰ってから丑松は高柳の訪問を受ける。お互いに不都合なことは話さないでおこう、という申し出を拒絶したが、その後しばらくして町中に丑松の秘密を暴露するような噂が流れる。
この小説は丑松という人間の内面的な苦悶を主題としているが、社会的背景を大きなテーマとして捉えざるをえない。
藤村の目線は果たしてどのあたりにあったのだろうか?
教え子に対して「許してください」と言いながら板敷きの上へ跪いた丑松。
「破戒」が投げかけた問題は、丑松が生きた時代から100年の時を経て、なお根本的な解決に至っていない。





2011.10.4

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