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三億円事件

【著者】 一橋 文哉    【装丁】 新潮文庫 452頁
【価格】 629円+税    【発行】 平成14年3月

1968年(昭43)12月10日、日本犯罪史に残る事件が発生した。「三億円事件」である。
午前9時21分ころ、府中刑務所北側路上で東芝府中工場へボーナスを届ける日本信託銀行の現金輸送車が、ニセ白バイに乗ったニセ警察官に車ごと奪われたのである。
現場には犯行に使われたニセ白バイをはじめ、大量の遺留品が残された。解決は時間の問題と思われたのだが、遺留品のほとんどは大量生産されたもので入手経路をたどることができない。捜査本部に寄せられた多くの情報は、かえって捜査を混乱させるもとになってしまう。
何人もの容疑者が浮かんできたが、なかなか決め手がない。
関根篤(仮名)もその一人である。地元の非行少年たちがつくった「立川グループ」のリーダーとみられていた。関根は事件当時、東京少年鑑別所から土浦市の教護施設へ移送中に脱走して自宅にいた。さまざまな情況を照らし合わせてみると、かなり疑わしい。父親が現職警察官で白バイ隊員のため、制服やヘルメットが入手しやすいということも彼への疑いを深めた。制服やヘルメットは持ち去られ、遺留品のなかにはなかったのだ。
警察官の家庭だけに、篤は両親の悩みの種だった。
ところが、こともあろうか、その篤が12月15日に青酸化合物を飲んで死んでしまったのである。警察はこれを自殺と断定し、それ以上追及しなかった。
ところで著者が三億円事件を調査しなおすきっかけとなったのは、事件から30年後の1998年6月、「ヨシダ」という男と出会ったことによる。
「ヨシダ」は盗難紙幣のうち、当時番号が公開された500円札、1枚のコピーを持っていたのだ。「ヨシダ」の話では、その紙幣を持っていたのは、米国人の父親と日本人の母親の間に生まれた「ジョー」という男とのこと。「ジョー」は当時、立川や福生の周辺で暴れまわっていた非行少年グループのリーダーだ。
著者は「ジョー」の追跡をはじめ、「先生」こと松田誠一郎(仮名)と「ロク」に行きつく。
果たして真実を明らかにすることができるのか。
もちろん、時効はすでに成立している。
迷宮入りとなった「三億円事件」が起きた時代背景も興味深く、十分納得しながら読める一冊である。





2011.10.13

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