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父親


【著者】 遠藤 周作   【装丁】 集英社文庫 491頁
【価格】 743円+税  【発行】 2009年6月

昭和50年代半ばの物語である。
石井菊次は56歳。中堅化粧品会社の宣伝部と開発部の部長を兼ねる重役で、純子と公一の二人の子がある。純子は上智大学卒業後、先輩のやっている会社へ入り、中高年男性のスタイリストになった。当然、顧客は社会的地位の高い人々である。
彼女は仕事を通じ、食品会社社長の宗と出会い、その情熱に魅かれて本気で愛するようになる。宗には妻子があるが、夫婦仲は冷え込んでいて別居中である。宗は妻と離婚して純子と結婚するという。
彼女はその言葉を信じたものの、とても父母には打ち明けられない。特に父は、「けじめ」を重んじる戦中派だ。
しかし、いつまでも隠し通せるものではなく、事実が知られると、純子は父母の反対を押し切ってアパート住まいを始める。実は、宗は、菊次が慶応大学時代、ひそかに思いを抱いた女子学生、節子の娘婿だったのだ。
折しも、菊次の会社では新製品の発売をめぐって社内対立が起き、菊次は販売成績不振の責任をとって辞職することになった。
一方、純子はあくまでも宗との愛に生きようとしたが、宗の妻の交通事故を契機に、宗との関係が変化していくことを思わずにいられない。
父親からみれば、娘は理屈抜きで可愛い。いつまでもそばにおきたいが、そうはいかない。ならせめて、幸せな結婚をしてほしい。しかし、娘も一人の人間で父親の思うようにいくものではない。
娘がその経験からえたものは青春の苦さであり、その娘を救ったのは、−平凡ながら− 家族の愛情という話である。




2011.10.29

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