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永遠の0(ゼロ)


【著者】 百田 尚樹     【装丁】 講談社文庫 589頁
【価格】 876円+税    【発行】 2009年7月

佐伯健太郎とフリーライターの姉、慶子が太平洋戦争で戦死した祖父、宮部久蔵のことを調べるところから物語が始まる。健太郎と慶子の本当の祖父が宮部であることを知ったのは6年前、祖母が亡くなったときのことである。祖母は宮部久蔵と結婚し女の子、清子を産んだが、久蔵が戦死したため大石賢一郎と再婚したという。
宮部が戦死したのは清子3歳のときである。清子とて父親の記憶がない。かくして姉弟による祖父探しの旅が始まり物語が動き出す。
戦後60年経っている。当初はまったく手がかりがないのではないかと思われたが、案外多くの戦友に行き会うことができた。
ところが最初訪問した戦友の宮部評はまことに芳しくないものだった。戦闘機乗りとして凄腕をもちながら、同時に異常なまでに死を恐れ、生き残ることにのみ執着する臆病者、それが宮部だという。
しかし、次々と戦友を訪ねていくうちに宮部という人物の実像が浮かび上がってくる。彼の人間としての素晴しさが、読む者の心にぐいぐいと迫ってくる。彼は臆病者でもなければ卑怯者でもないことが、霧が薄れるように分かってくる。
その彼が、何ゆえ終戦間際に特攻機に乗ったのか?
待ち構えているのは、思いもかけない結末だ。
本書の内容は多彩でありながら、しっかりとまとまっている。
太平洋戦争における各時点での考察や真珠湾から始まった海戦の評価、空中戦での戦法や搭乗者心理など、戦争の実態を知るためにはなまじの歴史本より面白い。
また、軍事官僚の愚劣さと、彼らの面子と出世欲のために翻弄され命を失った若者たちの心情を見事に描き出している。
日本は「敗戦」をどう総括したのか、あるいはしなかったのか。2011年の今日、大震災と原発事故を機に改めて問われているといえるだろう。






2011.11.21

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