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博士の愛した数式
【著者】 小川 洋子 【装丁】 新潮文庫 291頁
【価格】 438円+税 【発行】 平成17年12月
家政婦の“私”は1992年3月、初めて博士の元へ派遣される。数学者である博士は、これまで9人もの家政婦が交代した扱いにくい顧客である。とにかく、「記憶が80分しかもたない」という障害があるため、ベテランの家政婦でさえ音をあげてしまうのだ。
博士の記憶は1975年で止まっていて、その後は80分のビデオテープがセットされたように、上書きされては消えてゆく。毎朝、訪問するたびに靴のサイズを聞かれ、年齢を尋ねられる。博士にとって、私は常に初対面なのである。
物語は博士と私、それに私の10歳の息子を中心に展開する。記憶をなくした人との心の交流を描く、悲しくも暖かい物語である。
さて、本書は数学者が主役ということで様々な数式がでてくるが、学校で習ったものとはかなり趣が異なり、“数の遊び”といった類のものが多い。その中の目玉が「完全数」である。完全数とは、約数をすべて加えると元の数になるような数で、ここでは28が登場する。
28:1+2+4+7+14=28
28という完全数は、かつて阪神で活躍した江夏投手の背番号である。私と息子は(今の)阪神の大ファンで、博士は江夏の大ファンだ。28という数字がこの3人を堅く結びつけるマジックナンバーになり、重要な役割を演じる。
この着想が本書の中核をなし、これまでにない物語に仕上がっている。
いまではすっかりステイタスをえている「本屋大賞」の第1回グランプリに輝いたのも、むべなるかなといったところである。
2010.5.25
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