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東京ダモイ


【著者】 鏑木 蓮     【装丁】 講談社文庫 440頁
【価格】 695円+税   【発行】 2009年8月

2006年、第52回江戸川乱歩賞受賞作品である。
ダモイとは“帰郷”という意味だ。
自費出版で定評のある薫風堂出版の営業部に勤める槙野英治は、上司の朝倉晶子から綾部(京都府)行きを指示された。高津という人から500万円の仕事の依頼を受けたという。その打ち合わせだ。
高津の依頼は一風変わった形式の句集の出版だ。彼は戦時中、関東軍配属で、戦後はソ連によってシベリアへ抑留された。句集はシベリアのラーゲリでの生活を綴ったもので、その一句一句に詳細な解説がついている。
ただ、彼が500万円という大金を出す条件は、薫風堂の新聞広告に、その句集を大きく取り扱ってほしいということだ。
さて、話が進んで2回目の訪問となったが、訪ねてみるものの高津の姿がない。家には槙野宛の書置きがあって、不在となる失礼を詫びてはいるものの理由が分からない。
折しも、ロシアからの旅行者であるマリアという83歳の女性が舞鶴港で水死体で見つかったというニュースが入ってくる。そして、彼女を日本へ招待した鴻山という医師も行方不明になった。
高津が新聞記事のその部分を切り抜いていることに気づき、槙野は舞鶴を訪れて高津の足跡を追う。果たして高津は、マリアの事件を聞くために、舞鶴警察署へ寄ったという。その後行方が分からない。何ゆえ高津は姿を消したのか。
60年前、シベリアのラーゲリで起きた殺人事件が今日まで尾を引いているとは、何と重いテーマだろう。
謎を解くカギは高津が残した俳句にしかない。そして槙野と朝倉は、ついにその謎解きに成功した。
高津の原稿を借りてのシベリア抑留生活の描写と殺人事件の犯人を特定する決定的証拠。セミドキュメンタリーとミステリーを融合させた構想に舌を巻く。詠み始めたら止まらない傑作である。





2011.12.10

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