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症例A


【著者】 多島斗志之    【装丁】 角川文庫 569頁
【価格】 724円+税   【発行】 平成15年1月

榊は精神科の医師であるが、前の病院で上層部と対立し、「良心的」と評判のS病院へ移ってきた。前の病院では100人からの入院患者を診ていたが、ここでは20人でいいという。
本書では精神病の症状と、その病名について詳細な解説が続く。巻末に記された多くの参考文献をみると、著者が精神病について相当深く研究していたことがわかる。
担当した患者の中に亜左美という仮名の17歳の少女がいた。前任の医師が精神分裂病と診断した美少女だ。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心を振り回す。この種の患者の言うことは、本心なのか妄想なのか判別がつかないことがしばしばだ。困ったことに、同じような症状を呈しても、病気によって治療方針がまったく変わってくる。病名の判断が難しいのが精神科の特徴である。
榊は亜左美に対し「境界例」との疑いを強めるが、女性臨床心理士の広瀬は「多重人格」の可能性を指摘し、榊と対立する。
さて、本書は榊と亜左美を中心としたS病院での出来事とは別に、首都国立博物館の重文クラスの美術品が贋物ではないか、という話が絡んでくる。当然、最後はこの二つの話が一点へ収束するのだが、その因縁じみたところも興味深い。
「正常」な人からみれば、精神病といえば極めて異質なものとの認識だが、本書により多少の知識を仕入れれば、理解の一助になることは間違いない。
(※)2002年8月、日本精神神経学会は、「精神分裂病」という病名を「統合失調症」という名に変更することに決めた。





2012.1.13

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