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王朝序曲


【著者】 永井 路子    【装丁】 角川文庫 (上)274頁(下)280頁
【価格】 (上)(下)480円+税   【発行】 平成9年2月

桓武天皇による長岡京、平安京への遷都を経て、平城天皇、嵯峨天皇により世情が安定するまでの物語である。
藤原家は鎌足の子、不比等のあと、南家、北家、式家、京家に分かれるが、本書の語り手を務めるのは、北家の流れをくむ冬嗣である。冬嗣は内麻呂と永継(ようきょう)の間に次男として生まれる。兄は真夏というが、桓武には、永継との間に安世という男子がいる。つまり真夏と冬嗣は、安世とは異父兄弟ということになる。
真夏は、式家の緒嗣と母が式家の出である桓武の子、安殿(あて)と同年である。すなわち、式家と北家は、それぞれ安殿と安世を擁し、天皇を挟んで勢力を張りあうという関係にあるが、桓武天皇は即位にあたって緒嗣の父、百川の力に頼ったためどうしても式家贔屓である。
桓武は天武即位以来その地位につくことのなかった天智系の天皇だ。
このため、これまでの政治に批判的である。いきおい新機軸を打ち出すために無理な政策を強行した。その第一が遷都であり、第二が蝦夷(東北)への出兵である。
しかし、建設中の長岡京は洪水に見舞われ、遷都先を京都へ移らざるをえず、一方、蝦夷の戦争では苦戦を強いられる。国は疲弊する一方だ。
冬嗣は、いわば反主流派の、しかも次男ということでなかななか政治の中心へ出る機会がないが、世の巡り合わせというものは不思議なもので、代が変わるごとに次第に頭角を現わすことになる。
桓武の後を継いだ平城天皇は奈良へ引き込み、その弟の嵯峨天皇は、文芸に秀でているものの政治に興味のない人物だ。嵯峨天皇の代になって、権威と権力の分離が明確になった、というのが著者の考えである。





2012.1.21

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