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沈黙


【著者】 遠藤 周作    【装丁】 新潮文庫 256頁
【価格】 476円+税   【発行】 昭和56年10月

ローマ教会へもたらされた報告によると、ポルトガルのイエズス会から日本へ派遣され不屈の信念の人とされたフェレイラ神父が、拷問に屈して棄教したとのことである。
島原の乱が鎮圧されて間もないときで、日本では切支丹に対する取り締まりが極めて厳しくなったころである。
ポルトガルの若い司祭、ドロリゴら三人は、あえてこの時期に日本への潜入を企てる。もちろんフェレイラ神父の消息を確認するのも目的の一つである。
本書の筋立ては簡潔である。最初から彼らの行動が失敗し、敗北することは明白だ。事実、物語は一直線の展開で、事態は読者の予想通りに展開して裏切ることがない。
さて、ロドリゴはガルベとともに日本上陸を果たす。上陸のために二人を導いたのはキチジローという漁師である。もう一人の同志、マルタは病をえて途中で脱落した。キチジローは切支丹の村と連絡をとり、ロドリゴたちの居場所を確保してくれるが、二人で行動することは危険なため、それぞれ別行動をとることになった。
それでもいつまでも隠れおおせるものではない。役人の目にとまり、牢に入れられることになる。
キチジローの卑屈な裏切り、ガルベとの再会と別れ、予想だにしなかったフェレイラの姿。物語は終局に向かってひた走る。
長崎奉行、井上筑後守はキリスト教の弾圧に無類の狡知を発揮する。ことは彼の思惑通りに進む。
人の弱さが身に沁みる。だからこその“神”なのだが、神は沈黙を続ける。
カトリックの信仰の隘路を描きながら、すべての読者の共感をえる宗教小説としての高みがある珠玉の一冊である。





2012.1.24

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