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慟哭


【著者】 貫井 徳郎     【装丁】 創元推理文庫 418頁
【価格】 743円+税    【発行】 1999年3月

著者の処女作である。
三人称で語られる二つの物語が並行して進行する。
一つは、連続幼女誘拐事件である。警視庁の佐伯捜査一課長はキャリアながら現場を希望し、今の職にある。彼は元法務大臣の庶子であり、妻は現警察庁長官の娘を妻にしている。元法相による政略結婚であることに気づいたのは、話がすべてまとまってからだった。結婚してからというもの、一女をもうけたとはとはいうものの夫婦の仲はうまくいっていない。
事件は、かねて行方不明だった斉藤奈緒美ちゃんが遺体で発見されたことからはじまる。東日野署に捜査本部が設置され、佐伯が指揮をとることになった。所轄の刑事課長は、佐伯に露骨に反発する。
警視庁の丘本は、所轄の北岡と組んで情報収集にあたる。しかし、丘本の班に限らず、なかなか有力な情報が集まらない。捜査は膠着状態になる。
さて、もう一つは、新興宗教に惹かれていく孤独な男の話である。彼が入信したのは「白光の宇宙教団」という団体だ。彼の目から見るとどこか洗練された雰囲気のある団体だ。強制的なところのないのが気に入った。しかし、本質は違う。違う、と思いながらもこの教団にしがみつく。彼には、しがみつかなければならない理由があった。
さて、先へ進むにしたがって、二つの話が接近していくのだが、最後にとんでもない逆転劇が待っている。
実はこの二つの話、理屈的にはおかしいのだが、なぜか感心してしまう出来栄えである。
読み応えのあるエンターテイメントといえるだろう。





2012.2.3

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