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傍聞き(かたえぎき)


【著者】 長岡 弘樹     【装丁】 双葉文庫 217頁
【価格】 524円+税    【発行】 2011年9月

短編4本を収録する作品集である。表題作の「傍聞き」は2008年の第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した。
全編に共通しているのは、人間に対する信頼である。人はおそらく、自分の経験の範囲内でしか物事の判断ができないのだろうが、経験の範囲内であっても気づいていないことも多い。本書は「気づき」の仕掛けを実に見事に組み立てている。
第一話【迷走】:娘が事故で車椅子生活になった室伏と、その婚約者・蓮川は同じ消防署に勤務する。その二人が事故を不起訴にした検事を救急車で搬送することになった。上司である室伏は病院の周囲を回るだけで、なかなか病院へ搬入しようとしない。
第二話【傍聞き】:羽角啓子は小学生の娘と暮らす警察官である。自宅に隣り合わせて同性の羽角フサノが住んでいる。このフサノの家に空き巣がはいった。独り暮らしの年寄りを狙った犯罪だ。フサノの気持ちを心配した啓子の娘は、ある手を打つことを考える。
第三話【899】:消防士の話である。諸上は、隣家の新村初美に好意をもっている。初美は、事情は分からないが、4か月の娘と二人暮らしである。その初美の家が火災になった。諸上の逆隣りの老人宅から出火した火災が延焼したものだ。この火事で、諸上は思いがけないことを知ることになる。
第四話【迷い箱】:設楽結子は、刑務所を出所した人を一時的に預かる厚生施設・かすみ荘の責任者である。施設には様々なタイプの人間がいる。盗癖がなおらない者もいれば、犯した犯罪から立ち直れない者もいる。
いずれも短編ながら、十分に読みごたえのある作品がそろっている。





2012.2.5

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