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【著者】 三浦 綾子 【装丁】 角川文庫 (上)368頁 (下) 371頁
【価格】 (上)(下) 460円+税 【発行】 昭和57年1月
「氷点」は1964年(昭39)、朝日新聞朝刊に連載されて大反響を呼び、三浦綾子の名を世に知らしめた小説である。
辻口啓造は旭川市の病院長で、美貌の妻・夏枝と長男・徹、長女・ルリ子の4人家族である。理想を絵にかいたような家庭だが、夏枝が青年医師・村井に言い寄られている間に、3歳になったばかりのルリ子が殺されるという事件が発生した。
啓造は、夏枝への屈折した憎しみと、「汝の敵を愛せよ」という教えへの挑戦とで、ルリ子を殺害した犯人の娘、陽子を養子として迎える決心をした。
孤児院に関係している友人の産婦人科医、高木の協力による。高木は考え直すよう説得するが、啓造の意思は固い。お互い秘密を守ることを誓って、陽子を辻口家の娘とした。
事情を知らない夏枝と徹は、陽子に暖かく接する。陽子も名前の通り明るく素直な少女として育っていく。しかし、啓造自身は、どうしても陽子に無心で接することができない。
家庭内の秘密が、いつまでも秘密であることは不可能だ。
夏枝は、偶然に陽子がルリ子を殺害した犯人の子であることを知り、啓造と陽子を激しく憎悪する。極まってあやうく陽子に手をかけようとし、思いとどまるものの、陽子には心の傷として長く残る。
啓造は学会への出張の折、青函連絡船の難破事故に遭うが、運よく九死に一生をえる。これを機会に新たな気持ちで生きようとするが、そう簡単にいくものではない。
そのうち、陽子の出生の秘密は徹の知るところになる。陽子は徹の友人の近藤に心を惹かれており、陽子を異性として意識するようになった徹の気持ちは乱れる。
善人といっていい人達でも、お互い多少のすれ違いが重なることによって想像もできない結果になる。
有閑マダムの浮気と継子いじめ、そして主人公が自分の出生の秘密に悩むという、世俗的なテーマを超えて読者に訴えるものがあるのは、作者のキリスト者としての「原罪」が重いテーマとして横たわっているからであろう。
2012.3.21
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