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華岡青洲の妻

【著者】 有吉 佐和子   【装丁】 新潮文庫 226頁
【価格】 350円+税    【発行】 昭和45年1月

世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過度期に新時代を開いた紀州の外科医、華岡青洲の物語であるが、実は、姑と嫁の間に繰り広げられる女の葛藤が主題になっている。
加恵は紀ノ川の北、上那賀郡名手荘(なてのしょう)の豪農、妹背家の娘である。この妹背家へ、医師華岡直道の妻於継が、加恵を長男雲平の嫁にもらいたいと訪ねてくる。妹背佐次兵衛はあっけにとられて開いた口がふさがらない。江戸後期、医師の社会的地位が上がったとはいえ、妹背と華岡では家格が違いすぎる。とても飲めた話ではない。
しかし、当の加恵がこの話に乗り気で、ついに華岡へ嫁ぐことになった。理由は、於継が世にもまれな美形で、良妻賢母の呼び声がたかかったことにある。加恵はこの姑にあこがれて嫁に行ったといってよい。
さて、雲平と結婚したものの、実は花婿は不在である。京都へ医学の勉強に出かけており、3年はもどらない。加恵は、夫の顔も知らぬままその間を過ごすことになる。於継は加恵を大切にし、小姑二人ともうまくやっていくことができて、加恵は幸せな日々を過ごしていた。
様子が変わったのは、雲平が家に帰ってきてからである。
姑と嫁との関係は、おそらく昔も今も共通したところがあるのだろうが、男には理解できない難しさがある。しかもこの時代、封建社会における「家」に縛られての日常である。
作者は、そこで生きる女のすさまじさを女流作家の目で見事に描き出している。
人の心の中は傍から見ただけでは分からない。作者は、それらを読者の目の前にさらけ出す。ある意味、恐ろしささえ感じさせる力作である。

2012.4.1

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