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ノーフォールト

【著者】 岡井 崇           【装丁】 ハヤカワ文庫 (上)299頁 (下)302頁
【価格】 (上)(下)600円+税    【発行】 (上)(下)2009年9月

柊奈智は、城南大学病院産婦人科に勤務する若手女性医師である。当直の夜は、胎児の心拍音を聞きながら眠る。異常があれば目が覚めるのは、経験のなせる技である。その日、徳本美和子の胎児の心拍数が低下し、緊急に帝王切開をする事態になった。あいにく、指導者の君島が立ちあえない。奈智は、自分が執刀すべく手術の準備をした。ところが、いざ手術を始めてみると出血がひどく、術野が見えない。手こずっているところへ君島がやつてきて、ようやく出血をとめることができた。
しかし、術後の美和子は体調が安定しない。出血を繰り返したため再手術となり、結局死亡してしまった。なぜ、出血したのか、疑問が残ったままである。
患者を死なせてしまった奈智の心は晴れない。それに加えて、美和子の夫、慎一から医療過誤の裁判を起こされてしまう。弁護人の心ない攻撃に奈智は精神を病むようになる。
さて、本書の作者は昭和大学医学部教授で産婦人科の権威である。本書では、日本の医療制度の欠陥を指摘し、その改善策を提言している。大学病院の医師の勤務は聞きしにまさるものがある。とりわけ産婦人科は激務もさることながら、訴訟に発展するケースも多いとのこと。丈夫な赤ちゃんが産まれて当り前、母親は元気で当然といった期待のなかで、苦闘している医師の姿には頭がさがるばかりである。
奈智の言葉を借りれば、赤ちゃんが産まれるときの感動ゆえに産婦人科の医師でいたい、ということだろう。
ところで何より本書のよいところ。それはハッピーエンドで終わることだ。作者の心の優しさが伝わってくるような結末である。安心して読み進めよう。





2012.4.2

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