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凍える牙

【著者】 乃南 アサ     【装丁】 新潮文庫 520頁
【価格】 705円+税    【発行】 平成12年2月

直木賞受賞作である。
深夜のファミリーレストランで、突然男の身体が燃え上がった。遺体はベルト位置から上の火勢が強く、腰から下はそれほどでもない。極めて特徴的な燃え方だった。また足には獣に咬まれたような跡がついている。
警視庁機動捜査隊の音道貴子は、所轄の刑事、滝沢と組んで捜査にあたる。
やがて男の身元が明らかになった。自称菅原琢磨こと原照夫という。燃えた雑居ビルの中で風俗関係の店を経営していた。
やがて、原と同じ獣によるものと思われる咬殺事件が続発する。被害者は、サラリーマン、主婦、自営業者と様々だが、過去10年以上さかのぼり、ようやく被害者間の接点を見出すことができた。
ところでいったい獣の正体は何か。
貴子と滝沢は動物関係の業者などを訪ね歩き、ようやく“オオカミ犬”ではないか、という結論に1行きつく。オオカミ犬とは、シベリアオオカミなどと犬をかけ合せたもので、オオカミの血が濃いものほどオオカミの特性を有しているという。
ところで、警察は典型的な男性社会だ。
貴子は、同じく警官の夫と離婚している30代の女性。刑事畑にはめずらしい存在だ。相方の滝沢は40代だが妻に逃げられて子どもを3人育てている。昔ながらのデカで、女性蔑視がはなはだしい。その気持ちはコンビを解消するまでかわらないが、それでも貴子と組んで、多少の意識の変化はあったようだ。
事件の内容は新鮮で目をひくが、全体の構成は複雑すぎることはなく、また登場人物の数も適当で、読んでいて筋がすんなりと入ってくる。
世の中、あまりにも理不尽なら“復讐もありか”、と思わせる一冊だ。





2012.4.10

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