このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

恋せども、愛せども

【著者】 唯川 恵     【装丁】 新潮文庫 417頁
【価格】 590円+税    【発行】 平成20年7月

金沢で置屋をしていた祖母、音羽、元芸妓の母、篠、28歳で同い年の姉妹、雪緒と理々子。これが高久家の家族である。
音羽と篠は金沢主計町で小料理屋を営んでいる。雪緒は大手不動産業者へ勤めており、今は名古屋住まい。理々子は東京で独立している。
ところで、高久家の家族4人は、お互いまったく血のつながりがない。それでも実の親子姉妹以上の愛情で結ばれている。なぜ血のつながりがないかは本書を読めばすぐに分かるので、くどくど説明するのはやめておこう。
さて、物語は、雪緒と理々子の生活を描きながら、祖母と母とを背景に展開する。
理々子は役者を志し、18歳のとき上京した。劇団に入ったものの思うところあって脚本家に転身する。25歳のとき、新人脚本コンクールで佳作入選したが、以後3年、鳴かず飛ばずでアルバイト暮らしを続けている。彼女には倉木という恋人がいたが、気持ちの行き違いから今は友人としての付き合いだ。
一方、雪緒は一流大学出の総合職。キャリアウーマンとしての道を歩んでいる。全国を転勤し、今いる名古屋では長峰という妻子持ちの男性と付き合っている。もちろん、結婚などということは考えていない。名古屋にいる間だけの関係だと割り切っている。
人には様々な転機がある。
理々子の場合、今野由梨という、かつてコンクールで優勝した脚本家のアシスタントを引き受けたこと。雪緒の場合、マンション取り壊しで老人説得に苦心したこと。
二人の場合、その他様々な出来事が転機になった。当り前のような出来事であっても、当事者にとってはかなりの事件である。
そうした事件を織り交ぜながら、話は静かに終息に向かっていく。
人の心の深奥をうまく描き出して読む者の気持ちを惹きつける。作者の力量に感服せざるをえない傑作である。






2012.4.14

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