このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
|
パラサイト・イブ
【著者】 瀬名 秀明 【装丁】 角川ホラー文庫 490頁
【価格】 780円+税 【発行】 平成8年12月
大学で生体機能薬学を専攻する薬学部助教、永島利明の妻、聖美が交通事故で脳死状態になった。利明は聖美の生前からの意思を尊重し、彼女の腎臓を提供することにした。
腎臓は二つあるため、レシピエント2名へ一つづつ提供する。
一つは中学生の安斉麻理子へ移植されることになった。臓器提供の仲立ちをするのがコーディネーターで、織田という女性が手際よく連絡をとる。
摘出から移植まで早いほど生着率がよいのは当然のことである。わずかの時間のうちに決断を迫られる緊迫の場面が続く。執刀医の吉住は、以前にも麻理子へ腎臓移植の手術をしたことがある。そのときは、思いがけない原因で生着させることができなかった。今度こそ、その轍を踏みたくない。
このあたりの描写は、著者が専門家であるだけに難解な用語の連続だ。巻末に解説がついているが、なかなか素人には理解しがたい。それでも全体的なイメージが、何となく分かったような気になるから不思議である。
このように、前半は腎臓移植手術の実態が主題だが、後半はSFまがいの展開になる。
永島が内々に聖美の肝臓の細胞を培養した結果、ミトコンドリアが優勢になり、麻理子の身体を支配して子孫を残そうとする。増殖したミトコンドリアは、ゾル状になり、また聖美の体型になるなどして麻理子に迫る。
話がこうなってみるとハテナと思うのだが、もとより著者は東北大学大学院薬学研究科博士課程
をでた専門家だ。
奇想天外のように見せながら、あるいは自分の研究対象に夢を膨らませたのかもしれない。
内容が科学的知見に裏付けられているだけに、あなどることのできない一冊だ。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
|