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ボーダーライン

【著者】 真保 裕一     【装丁】 集英社文庫 584頁
【価格】 800円+税    【発行】 2002年6月

サム永岡は日系の信販会社、総和信販ロサンゼルス支社の調査員である。仕事の内容は、いわば私立探偵ともいうべきものだ。事実、永岡は探偵としての公的資格であるPIライセンスを取得している。この資格は、米国の市民権をえて3年を経過しなければ受験することができず、しかもこの間に実務経験を積んでいなければならないという厳しいものだ。それだけにライセンス所持者は相応の社会的信用がある。
永岡の仕事は、信販会社の立場で、日本企業や日本人旅行者のサポートを行うというものだ。具体的には、企業信用調査であったり、行方不明日本人旅行者の探索である。
今回持ち込まれた案件も、一人の若者を探してほしいというものだ。ただ、依頼人も依頼の目的もはっきりしない、という点が気がかりな点ではある。
果たせるかな、メキシコ国境でようやく行き会った彼は、天使のような笑顔を浮かべながら永岡に発砲してきた。実は彼、日本において犯罪を重ね、あげくの果てにアメリカに渡り、しかもアメリカに来てからも犯罪グループの長として悪事を行っている。
そうした悪事の数々を、あまりにも平然として行うだけにかえって露見しないのだが、彼の父親だけはそれを見抜いていて、とある決意をもって彼を追ってくる。
人として当然備えていなければならないものを備えていない人間がこの世に存在することの恐ろしさを教えてくれる、何ともやりきれない小説であるが、筆者なりの“まとめ”をして終わっているところに、いささかの救いを覚えるのは小生だけだろうか。






2012.5.5

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