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イントゥルーダー

【著者】 高嶋 哲夫     【装丁】 文春文庫 377頁
【価格】 543円+税    【発行】 2002年3月

東証1部上場企業、東京電子工業の副社長にして研究開発部長を兼ねる羽嶋浩司のもとへ、松永奈津子と名乗る女性から電話がかかってきた。奈津子は25年前、学生時代に互いの将来を誓っていたものの、突然行方が分からなくなった元恋人である。奈津子は、「あなたの息子が重体です」という。羽嶋は当時、奈津子が妊娠していたことは知らない。ましてや息子がいるなどということは、寝耳に水としか言いようがない。
病院へ駆けつけてみると、息子は新宿で交通事故にあい、全身を強く打って意識が回復しない。そして数日後、手当の甲斐なく亡くなった。
息子の名前は慎司といい、ユニックスという今をときめくソフトウェア開発会社へ勤めている。
警視庁捜査第4課の名取警部補と藤田という若い刑事は、慎司の身体から覚醒剤の反応がでたため、運び屋をやっていたのではないかと疑っている。しかし、事故の様子に不自然さを感じた羽嶋は、その原因究明に乗り出す。それがこれまで息子に何もしてやれなかった父親の努めと感じたからだ。
調べを進めていくうちに、慎司がどんな息子で何を探っていたか、真実に近づいていく。しかし、真実に近づくにしたがって、羽嶋の周囲は物騒な影に取り囲まれる。命を狙われ、暴行を受ける。それでも羽嶋はひるまない。
羽嶋はスーパーコンピューターの開発で、業界では知られた研究者だ。同じ道を歩んでいる慎司は、羽嶋が父親であることを知っていた。いつも父親の背中を見ながら生きてきたのだ。
そしてあるとき、仕事を通じてとんでもないことを発見する。
新潟県で建設中の関東電力日の出原発に関するデータ改ざん疑惑である。
福島原発事故の12年前、1999年に単行本で発売され、サントリーミステリー大賞の読者賞を受賞したこの小説は、原発建設にからむ犯罪的行為を見事に描き出している。
まさに慧眼というべきで、作者の視点の確かさを感じざるをえない。
今こそ読んでみたい一冊である。






2012.5.16

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