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銃口

【著者】 三浦 綾子     【装丁】 小学館文庫 (上)461頁(下)441頁
【価格】 (上)(下)619円+税    【発行】 1998年1月

上下巻900頁に及ぶ大作である。
昭和元年、主人公の竜太が小学校4年生の時から物語が始まり、戦後、彼が復員して来るまで続く。題名に似合わず、物静かに反戦を訴える。
竜太は、転校生で毎朝納豆を売っている中原芳子に関心を持つ。彼女は父親が病気で貧しさのどん底にある。時に学校に遅れて来ることもある。そういう芳子に対し、担任の坂部先生は温かい。竜太は心を打たれ、自分も教師になろうと志す。
竜太の家は質屋をしており裕福だ。父、政太郎は侠気の人で、貧しい者には親切である。竜太が中学生の時、工事現場から逃げ出してきた朝鮮の青年を匿い逃がしたことがある。困った人を見ると、目をつむっていることができない性格である。
竜太は小さい時の望み通り、小学校の教師になった。昭和12年、希望して炭鉱の町の小さな小学校へ赴任した。
芳子も小学校の教師になっている。二人はお互いに好意を感じながら子どもたちとの生活に生きがいを感じる日々を送っていた。
昭和16年、竜太に思いもかけない出来事が起こった。治安維持法違反の容疑で官憲に拘束されたのだ。後で分かったことだが、原因は綴り方研究集会に出席したから、ということらしい。明るみにはでなかったものの、この時数十人の教師が拘束されたという。
竜太は拘留中に学校長宛退職願を書かされた。そして7か月の独房生活の後、釈放されたのだが、これは無罪ということではない。釈放されてからも警察や憲兵がつきまとい、勤め先へ現れるため、仕事を続けることができない。
心の支えになったのは、芳子と家族である。そして芳子と結婚することになった矢先、召集令状が届いた。鎧戸が降りた列車で、どこへ行くとも分からずに連れられていく。竜太の軍隊生活の始まりだ。
満州では戦場へ駆り出されることはなかったが、敗戦からの逃避行は文字通り命がけである。
戦争は、国家が行う最も非人道的な行為である。国民一人ひとりの死生を支配し、生活を強制する。著者の訴えは、読者共通の訴えでもある。




2012.5.26

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