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緘黙

【著者】 春日 武彦     【装丁】 新潮文庫 418頁
【価格】 670円+税    【発行】 平成24年2月

話は、ひとりの相撲取りの失踪から始まる。初場所7日目、“虎峰”は忽然と姿を消す。成績もよく行方不明になる理由が見当たらない。その虎峰が入院していると噂されているのが五百頭病院である。錯乱した虎峰が幽閉されているというのだ。
この病院には三人の医師がいる。ひとりは東北の精神病医の息子で信州大学を出た津森慎二。患者の話をゆっくり聞くタイプで、趣味や特技らしいものはない。
二人目は絵に描いたような美男の大辻旭。背が低いのが玉にきずだが、東大卒で目立ちたがり屋。マスコミにもたびたび登場する。治療は新しいことを積極的に試す。いつも自信満々だ。
最後は女医の蟹江充子。未だ独身。実家は由緒ある鉛筆メーカーで、材料に上質な木を使っているため愛好家も多い。神戸大学を出て麻酔専門医の資格も持つ。車好きでロータスを乗り回し、リコーダーの演奏が趣味である。
ある日、この病院にひとりの患者が入院する。新実克己、41歳。妹は有名なお姫様女優、両角沙里絵。五百頭院長が後援会の副会長をしているため、その縁で頼ってきた。
もともと変わり者だった新実は自分で描いた春画を売って収入をえていたが、15年前のある日突然、仏壇の前でごろりと横になったまま動かなくなった。排泄や食事など最低限のことはするものの、一切口を閉ざしてしまったのだ。
ここから始まる精神科医と新実との戦いが本書の読みどころである。医師にもいろいろなタイプがいて、患者への接し方が違う。五百頭病院の三人も、それぞれのやり方で新実の治療にあたるが、簡単には反応しない。
本書は精神科医によって、精神病なるものへの理解を深めさせようとする意図も感じられる。読者の偏見を拭い去る一助となること請け合いである。
相撲取りのその後は、本書で確認してほしい。

2012.5.31

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