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山口百恵

【著者】 中川 右介     【装丁】 朝日文庫 496頁
【価格】 940円+税    【発行】 2012年5月

文庫描き下ろしノンフィクションである。
山口百恵がデビューしてから引退するまでを丁寧になぞっている。
山口百恵は1973年春にデビューし、80年の秋に引退した。芸能界で活躍したのは、わずか7年半に過ぎない。それでも多くの人の記憶に強く残っているのは、彼女が尋常な存在ではなかった証であろう。
昭和を代表する芸能人と言えば、美空ひばりをおいてない。ひばりの場合、40年以上にわたって第一線で君臨した。それはそれで素晴らしいことに違いないが、山口百恵は、短期間の活躍にもかかわらず強いインパクトを残して芸能界を去った。
著者は、この不思議を解明するべく本書を著したといってもよい。
百恵は、森昌子、桜田淳子とともに花の中3トリオと呼ばれた。3人とも日本テレビのオーデション番組「スター誕生」で芸能界入りしたからだが、当初、3人のなかでは一番見劣りがしたような気がする。森昌子は、何といっても歌がうまい。桜田淳子はまばゆいような華やかさがある。素人目には、百恵の魅力がいま一つ分からなかった。
ところが、やはりプロの目は違う。百恵は歌手として、映画・テレビ俳優として、同時に別々の仕事をこなしてしまうのであった。
芸能界での活躍ぶりは、森昌子や桜田淳子の比ではない。
本書は、百恵の活躍の軌跡を芸能界の裏事情や力関係にも触れながら展開していく。といって別に秘密の情報があるわけではなく、公開されている情報を丁寧に整理して、読者に示しているのだ。
レコードをヒットさせるための作詞家、作曲家選び。映画やテレビドラマを成功させるための秘策。振り返れば百恵のために多くの専門家が力を注いだ。彼女にはそうさせるだけのものがあったということだろう。
彼女はキャンディーズの引退の言葉、「普通の女の子にもどりたい」に批判的だったという。彼女にとって、高校へ通い、芸能活動をすること、忙しい日々であっても、それは普通のことだったのだ。
引退した時21歳。芸能界の頂点にいながら、きっぱりとやめてしまったことを惜しむ声は多いが、芸能界にいることも、引退して結婚することも普通のことだったに違いない。
その後おもてに出てこないため、私たちの記憶の中にいる百恵ちゃんは、いつまでも21歳のままである。
そう思うと、今でも私たちは、彼女に、してやられているのかも知れない。






2012.6.23

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