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白く長い廊下

【著者】 川田 弥一郎    【装丁】 講談社文庫370頁
【価格】 580円+税    【発行】 1995年7月

第38回江戸川乱歩賞受賞作である。
外科医、窪島の勤務先は、J県の県庁所在地K市にある中堅どころの高宗総合病院であった。ここで、十二指腸潰瘍の手術を受けた患者の呼吸が、外科病棟へ移動する途中停止するという事件が起きる。窪島らの必死の手当てにより蘇生したものの、その患者は意識が戻らないまま夜間に窒息死してしまう。
麻酔を担当した窪島にとっては不可解なことばかりであった。窒息死の状況も不審だが、何よりも廊下で患者の呼吸が止まったのが納得できない。
問題は、手術中に用いられる筋弛緩剤のマッスロンを解除するためのパラスミン投与のタイミングだ。パラスミンは患者の覚醒を確認してから使う必要があるが、この点について、窪島には100パーセントの自信があった。
にもかかわらず、呼吸停止か起きたのは、何らかの作為がなければならない。窪島は計画的な殺人とみて、薬剤師の山岸ちづるの協力をえて独自に調査を開始する。
懸念していたとおり、患者の遺族は医療過誤に基づく賠償請求をつきつけてきた。これに対し、病院側は保険を頼りにするが、保険金が支払われるためには、しかるべき過誤があったことを医師が認める必要がある。だが、調査の進展によって少しづつ事件の背景が見えてきた窪島は書類への署名捺印を拒絶した。
本書の際立った特徴は、病院を舞台に医療の現場が描かれていることだろう。しかも、病院という狭い範囲にとどまらず、医療をとりまく環境についても言及し、問題点を明らかにするなど物語に深みを与えている。
現役の外科医である著者の面目躍如たるところである。





2012.6.28

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