このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

風が強く吹いている

【著者】 三浦 しをん    【装丁】 新潮文庫670頁
【価格】 819円+税    【発行】 平成21年7月

寛政大学へ入学が決まっていながら住所の定まらない蔵原走(かける)は、その走りっぷりを見込まれて、清瀬灰二に竹青荘というボロアパートへ連れて行かれる。竹青荘では、寛政大学生、9人が暮らしている。司法試験に合格した秀才もいれば、漫画オタクもいる。大学に年間在籍している猛者もいればサッカー好きな双子もいる。加えて黒人の留学生も、といった具合だ。
清瀬は高校時代、優秀な長距離ランナーだったが無理がたたって故障し競技から遠ざかっていた。
清瀬の夢は箱根駅伝へでることだ。箱根駅伝へでるためには、10人が必要。新入りの走をふくめ、アパートの全員を巻き込んでの練習が始まる。
走もわけあって競技から遠ざかっているものの、高校時代は全国トップクラスのランナーだった。
ところが、清瀬と走を除いた8人は、走ることについてはまったくの素人だ。

第一の難関は、公式標準記録の突破である。箱根駅伝予選会への出場資格は、キロメートルを17分以内で走った公式記録だ。
ブレーキは漫画オタクの王子である。漫画を読むことに時間をとられ、練習もままならない。それでもルームランナーで鍛えるなどして、どうにか記録をクリアすることができた。
予選会会場は立川の昭和運動公園だ。ほかの大学は12人が走り、上位ぬわ10人の記録で集計されるが、寛政大学は10人しかいないため、一人の落伍も許されない。
厳しい条件ではあったが、ここも切り抜けることができ、寛政大学は本戦へ参加することができた。
日、いよいよ本番の日だ。
ここからの実況中継が著者の面目躍如たるところ。読み進めるにしたがって、あたかもテレビを見ているように手に汗握る。知らず知らずのうちに寛政大学を応援している自分に気が付く。
レースの結果は、読者の楽しみにとっておこう。
夢を現実のものにした10人のほかに、竹青荘の大家でチームの監督を務める老人や八百屋の看板娘、有力大学のライバルなど、脇役の配置も過不足ない。
読み終ってみれば、楽しい時間を与えてくれた著者に感謝したくなる一冊だ。





2012.7.5

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