このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

贋作師

【著者】 篠田 節子     【装丁】 講談社文庫360頁
【価格】 563円+税    【発行】 1996年1月

日本画壇の大御所、高岡荘三郎が「生き過ぎた」という言葉を残して自殺した。
遺言により遺作の修復を依頼された栗本成美は、彼の弟子となるため彼女のもとを去り、師に先立って亡くなった美大時代の友人の死因に疑問を抱くようになった。
その友人、阿佐村慧は、模写に関しては天才的な手腕を発揮した。それはテクニックの巧拙の範囲にとどまらず、原画の緊迫感と衝撃力をそまま伝えることができるほどの能力だ。阿佐村にも成美にも、優れた剽窃、模倣の才能があったが、成美は、自分の絵の卓越した技法の先にみえる空虚さに気がついていた。成美の場合、こうした才能がすぐれたオリジナルに通じるものでないことを知っていた。結果、修復を業とすることになった。
同様の欠落を持っている阿佐村は、自らの脱皮を求めて高岡のもとへ行った。
高岡の妻、雅代はすでに亡くなっており、子どももないため、遺産はすべて妹の芳子が相続することになる。芳子は高岡の面倒を見るため、長年にわたり高岡の屋敷に同居していた。
修復を依頼された成美は絵の保管庫に案内されて、その状態の悪さに慄然とする。もともと芳子は絵の財産価値に関心があるのみで、絵そのものには全く関心がない。
それにしてもなぜ、高岡は、自分に修復を依頼したのか。業界で多少名前が売れているとはいえ、高岡とは面識がない。
修復を始めた成美は、大量の絵を見比べてなぜか違和感を感じざるをえなかった。果たしてこの絵はすべて高岡のものだろうか。そして、阿佐村はここで何をしていたのだろう。
疑問が次第に具体性を帯びて、成美の眼前に展開する。
鑑識眼のない素人にとって、芸術世界はまったく未知の世界である。






2012.7.29

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