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敗れざる者たち

【著者】 沢木 耕太郎   【装丁】 文春文庫298頁
【価格】 505円+税    【発行】 1979年9月

人々を熱狂の渦に巻き込んだロンドンオリンピックが終わった。日本の獲得したメダル数は38個。史上最高だという。マスコミは金メダルのとれなかった男子柔道には見向きもせず、卓球、アーチェリー、バドミントンなど、これまで注目度の低かったメダリストをとりあげる機会がふえた。
要するにスポーツは、結果を残さなければダメということだ。スポーツ界において、努力が(必ず)報われるということはない。努力が報われるのはごく一部の人であり、圧倒的多くの人は、報われないまま競技者としての生命を終わるのだ。また、優れた能力があったとしても、力及ばないライバルがいれば、表舞台に出られないこともあるだろう。
本書は、ボクシング、野球、競馬、マラソンといった分野で一流の力量がありながら、なぜか敗者としてのイメージが強い6人の物語である。
時代が昭和40年ころのことで、若い読者には読みにくいかも知れないが、団塊世代以上には懐かしい。それでも今日まで読み継がれているのは本書のもつ力だろう。
第3話、マラソンランナーの円谷幸吉の遺書は何とも切ない。「父上様、母上様、三日とろろおいしゅうございました」で始まる文は、川端康成をして「千万言もつくせぬ哀切である」と言わしめた。
古い日本人の有り様とその気質に共感する読者は多いことだろう。
人生に失敗はつきものだ。そうした自覚のうえで生きていくことを教えてくれる一冊である。







2012.8.17

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