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2012.9.16
少しだけ、無理をして生きる
【著者】 城山 三郎 【装丁】 新潮文庫 200頁
【価格】 430円+税 【発行】 平成24年8月
新潮文庫の新刊である。
2007年に亡くなった城山三郎が、修猷館高校(福岡)で行った講演などをもとに構成されている。
とくに城山が魅了されて小説の題材にした三人。「雄気堂々」の渋沢栄一、「落日燃ゆ」の広田弘毅、「男子の本懐」の浜口雄幸に関する口述が興味深い。
渋沢栄一は、「人は、その性格に合った事件にしか出会わない」に登場してくるが、彼は逆境におかれても逆境を意識する暇がないほど勉強し、提案を繰り返す。
パリ万国博覧会に派遣された渋沢は、持ち前の好奇心で、パリの下水道の中を歩き回り、またアパートの賃貸契約のやり方を学ぶなど、ヨーロッパの文化と知識を吸収していく。
広田弘毅は「自ら計らわず」に出てくる。福岡県の貧しい石屋の息子に生まれた広田は、その傑出した学力で、高校、東大に進むことになる。同期の吉田茂が「自ら計らう」人だったのとは対照的に、彼は何ら計らわなくても、私心のない高い志が周囲の尊敬を勝ち取っていく。
東京裁判では、キーナン主席検事までが、広田の死刑を「馬鹿げた判決」と言っている。広田はこの裁判でまったく言い訳をしなかった。判決は、その結果である。
浜口雄幸のことは、著書と同じ題材の章、「男子の本懐」にある。大蔵省にいたときは、左遷の連続であったが、この時期、自己研鑽を怠らなかった。彼は、日本近代史では例のないくらいの改革をやり遂げた。行財政改革や軍縮、婦人公民権法や労働組合法に取り組んだ。
このほか、城山が関心を寄せる何人かの人々とその生き方をとりあげている。
およそ人間、楽な道を選び、不味いことには目をつむりたくなるものだが、そんな弱い私たちに、勇気を与えてくれる一冊である。
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