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2012.9.16

文庫ライブラリ

果つる底なき

【著者】 池井戸 潤    【装丁】 講談社文庫  400頁 
【価格】 648円+税   【発行】 2001年6月

本書は1998年(平10)、第44回江戸川乱歩賞を受賞した。金融不祥事がクローズアップされた年に、元銀行員の大型新人が都市銀行の内幕を描き切った、として大きな反響を呼んだ。
大手都市銀行である二都銀行渋谷支店を舞台にした業界小説である。著者が銀行に勤務していただけに内容は正確だ。
融資課の課長代理を務める伊木は、債権回収を担当していた坂本の突然死により、彼が残した仕事を引き継ぐことになった。経営破綻した融資先の融資金回収に当たる業務で、経験と専門的知識を必要とする割には、陽が当たらない仕事だ。
引き継いだ企業の中に、東京シリコンという会社がある。半導体製造専門で業績を伸ばしたが、時流にのることができず、経営に行き詰った。
伊木は前支店長の時代、融資担当として同社と付き合いがあった。今回は、回収担当としての付き合いだ。巡りあわせである。
東京シリコンは、前支店長が本部へ栄転した直後に破綻した。伊木は不自然さを感じながらもなかなか実態に迫ることができない。真実は思ったより奥が深い。伊木は、亡くなった坂本の影を追いながら究明に努める。
渋谷支店は、行員50人からの大所帯だ。清廉な人間ばかりとは限らないのがこの業界、職場の特徴だ。足を引っ張る上司も珍しくない。周辺の人間が次々と死んでいくなか(死にすぎという評もあるが)ようやくすべてが明らかになっていく。
ビジネス界の暗部を抉り出した傑作、ということができるだろう。




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