天地明察
【著者】 冲方 丁 【装丁】 角川文庫 (上)282頁(下)290頁
【価格】 (上)(下)各552円+税 【発行】 平成24年5月
主人公は渋川春海、本来の名を安井算哲という。
四代将軍家綱の治世、将軍の前で碁が打てる家が四つあった。安井家は、春海の父が家康に見いだされ、以来、囲碁をもって駿府に仕えた。
囲碁四家のうちには、今でもタイトル戦に名を残している本因坊家もある。
ところで、春海は多趣味な男で、算術や天文にも興味があった。それも素人の域を越えるレベルだ。
当時の江戸は算術が盛んで、“算額奉納”というものが流行っていた。
神社へ絵馬で算術の問題を出し、解答を問うものだ。春海は金王八幡宮の絵馬により関孝和という人を知り挑戦する。関は、算術については、一瞥即解の名人である。
春海は関には及ばぬものの、その実力は幕閣の知るところとなり、当時の実力者、酒井雅楽頭から日本中の緯度測量を命じられる。
書家の建部昌明、御殿医の伊藤重孝という天文の第一人者とともに観測隊を組成し、春海は1年以上にわたり日本全国、旅を続ける。
帰りを待ち受けていたのは、会津藩主、保科正之。密命の中身は改歴である。
当時使われていた宣明歴は、800年を経過し、誤差が2日まで拡大していた。そこで春海は、専門家の間で最も信頼度が高いとされていた授時歴の研究にたずさわることなった。
結果、授時歴採用に向けて動くのだが、暦が天地を支配するものである以上、天皇の権威と結びついており、武士の力だけで動くものではない。春海には、苦難の道が待っていた。
改暦という目新しいテーマが面白く、一気に読み通してしまう一冊だ。