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2012.10.13

文庫ライブラリ
冤罪者

【著者】 折原 一          【装丁】 文春文庫  616頁
【価格】 762円+税         【発行】 2000年11月

フリーライターの五十嵐友也は、河原輝男という男が獄中から自分に向けて無実を訴えていると編集者から聞かされ、怒りを蘇らせた。河原は、かつて五十嵐の恋人・水沢舞を惨殺したとして逮捕された男だ。
今を去ること12年前の1983年6月から9月にかけて、東京・中央線沿線では、若い女性を標的にした連続暴行殺人事件が発生していた。開けっ放しの窓から侵入して獣欲を満たし、殺害したうえで証拠隠滅のため現場に放火するという残虐このうえない手口に世間は震えあがった。
たまたま最初の事件の第一発見者となった若手ライターの五十嵐は、仕事上のパートナーである出版社社員の水沢舞と恋仲になり、婚約までこぎつける。ところが、容疑者のひとりである河原を取材した直後、舞は連続殺人の7人目の犠牲者になったのだ。この事件は、別件で逮捕された河原が犯人と見なされ、一審で無期懲役の判決が下った。
なぜ、今になって、仇敵とも言うべき河原が自分の無実を訴える手紙を送ってきたかを訝る五十嵐。河原によれば、自分の自白は捜査官の拷問により強制されたものだという。半信半疑で事件の再調査を始めた五十嵐だが、やがて河原の無実を証明する人物が現れ、控訴審で彼は無罪判決を受ける。
しかしか、この判決に納得しない人々もいた。河原を自白させた元刑事の高山や、連続殺人の第二の犠牲者の父親である瀬戸田らだ。特に瀬戸田は、自由の身となった河原をつけまわし、彼の行動を逐一ホームページ上に公開する。
一方で河原は、獄中で結婚した妻の郁江を相手に、その歪んだ性格を次第に露わにしていった。そして遂に、河原の周囲で事件関係者たちが次々と殺されていく。果たして河原は狂気の殺人鬼なのか、それとも大仕掛けな奸計の犠牲者なのか。
本書は冤罪をテーマとしながら、単に、哀れな犠牲者と悪辣な警察・検察との対決といった形から抜け出した作品で、人の深層心理の複雑さを巧みに表現している傑作だ。




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