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流星 お市の方

【著者】永井 路子  【装丁】文春文庫 (上)345頁 (下)317頁
【価格】(上・下) 各619円+税  【発行】(上・下とも) 2005年3月

信長の妹にして海内の美女とうたわれた“お市の方”の生涯を綴る。
彼女の運命が大きく動くは十九歳の春、北近江の浅井長政への輿入れが決まってからである。北陸の雄・朝倉義景を牽制するための典型的な政略結婚だ。
しかしながら著者は、政略結婚とは個人的な感情を無視して犠牲を強いただけのものではない、として女性の立場を擁護する視点を貫いている。戦国当時、日本は男絶対の社会ではなかった。女は婚家に隷属することなく、実家代表、実家側の外交使節として嫁いでいったのだ、という。
夫・長政が朝倉へ寝返ったとき、信長への陣中見舞いと称して「小豆の袋」を送り、信長へ危機を伝えた話は、こうした事実を裏付ける具体例といえるであろう。
その後、浅井は信長の命をうけた木下藤吉郎によって滅ぼされ、長政夫妻の長男・萬福丸は捕らえられて串刺しにされた。お市は秀吉への憎悪の念をたぎらせながらも、三人の娘とともに信長のもとへ帰ってくる。
そして本能寺の変。秀吉の力が強大になるなかで、お市は織田家への忠誠が変わらない柴田勝家のもとへ再嫁するのだが・・・。
それにしても歴史というものはうまくできている。織田の血筋は三女・江与をとおして徳川へとつながる一方で、豊臣家は長女・茶々と秀頼をもって絶えてしまう。
まさしく人生は「夢のまた夢」(秀吉辞世)という思いに至らざるをえない。



2010.3.26

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