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流れる星は生きている

【著者】  藤原 てい   【装丁】 中公文庫 322頁
【価格】  686円+税  【発行】 1976年2月


終戦当時、著者は観象台勤務の夫と3人の子どもとともに満州の新京(長春)に住んでいた。
ちなみに、夫はのちに作家となる新田次郎である。
本書は昭和20年8月9日、ソ連参戦により危機が迫った満州から日本本土へ脱出した母子の記録である。夫は彼女らに同行することはできず、彼女は3人の幼子を連れて家を出発した。ここから必死の逃避行が始まる。
列車が中朝国境を越えて宣川という町で停車すると、彼女たちの一団はここで宿舎をあてがわれ、なんと1年間も足止めをくってしまう。
この町を出発したのは、昭和21年8月1日である。一行は釜山を目指すが、途中、列車の乗り継ぎができず、70キロメートルも歩くことになる。食料や日用品が乏しいなかでの子連れの旅の過酷さは想像を絶するものがある。
彼女らが日本の地を踏んだのは、昭和21年9月12日であった。1年以上にわたる長旅は、まさに極限状態の連続だ。不幸にして亡くなった人も少なくない。それでも3人は帰ってきた。
過酷な環境のなかで、人間の優しさも冷酷さも明らかにしながら話は進む。これも戦争という行為がもつ一面である。
戦争は戦場だけで行われるのではない。弱い者ほど犠牲を強いられる仕組みになっているのが戦争だ。
あれから65年を経て、あらためて読んでみたい一冊である。



2010.6.18

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