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2012.11.16

文庫ライブラリ

新幹線殺人事件


【著者】 森村 誠一      【装丁】 角川文庫 367頁
【価格】 590円+税      【発行】 昭和52年1月

東海道新幹線「ひかり」の車中で殺人事件が起きる。容疑者として浮かんだ男はそのとき、後続の「こだま」の車中から電話をしていた。
松本清張の名作「点と線」が発表されたのは昭和32年で、主役は夜行列車「あさかぜ」であったが、昭和44年の事件を扱った本書の主役は「ひかり」と「こだま」である。
いずれ、列車ダイヤの網目を縫ってアリバイを崩していく話であるが、「点と線」と「新幹線殺人事件」の間には、時間距離の差が大きく、戦後日本の発展の速さを思い起こさせる。
本書には、当時の時刻表の一部が掲載されているが、それによると、東京−新大阪間が「ひかり」で3時間10分、「こだま」で4時間10分である。運転本数は、1時間当たり、「ひかり」「こだま」ともに各3本程度といったところだろうか。駅数は、東京駅、新大阪駅を含めて13駅であった(現在は17駅)。
当時の「ひかり」は、新大阪を出ると途中、京都、名古屋に停車するだけなので、今の「のぞみ」より停車駅は少なかった。
東京駅19時55分着の「ひかり66号」車内で殺人事件が発生した。殺されたのは大阪の芸能プロ、「新星プロダクション」の事務局長、山口友彦だ。新星プロは、東京のキクプロと業界を二分する大手プロダクションである。
テレビが普及する一方で、安価にタレントを供給する芸能プロが力を増していた時代である。しかも翌年は、大阪で万国博覧会が開かれるという。イベントの主導権を握るべく、これらのプロダクションは熾烈な競争を展開していた。
キクプロの美村紀久子と新星プロの緑川明美はともに女性社長として辣腕を奮っていた。
そんな中で起きた殺人事件である。
大川ら、担当刑事は芸能界の裏で彷徨いながらも真実に近づいていく。
現代の刑事小説が次第に複雑になっていくなかで、本書が出たころはまだまだシンプルで分かりやすい。
高齢者にはおすすめのミステリーと言えよう。





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