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2012.11.28

文庫ライブラリ

P.I.P(プリズナー・イン・プノンペン)


【著者】沢井 鯨    【装丁】小学館文庫 507頁
【価格】638円+税   【発行】2003年6月



著者が放浪先のカンボジア・プノンペンで、謂われなき罪で投獄された事実をもとに書き起こした作品である。
カンボジアはベトナム、ラオスとともにフランスの植民地であったが、第二次世界大戦終戦後、独立を果たすことができた。もともとは豊かな農業国だ。しかし、ベトナム戦争が起きたことが不幸の始まりだった。
北を支援するシアヌーク政権は、カンボジア国内へ北ベトナムの補給基地を置くことを容認したが、アメリカはこれを不都合とし、ロン・ノル将軍を後押ししてクーデターを起こさせ、これらの補給基地を爆撃した。このため、30万人が死に、200万人が難民化したという。
ベトナム戦争が終結し、アメリカが去ると、ロン・ノル政権はあっけなく崩壊した。
1975年4月17日、この日が新たな悪夢の始まりだった。ポル・ポト指揮下にあって少年兵を中心に組織されたクメール・ルージュの殺戮が始まったのだ。これから4年の間に、800万人国民の3分の1が何の意味もなく虐殺された。
これだけの人が亡くなると、親族間で殺し合いを余儀なくされたケースも珍しくない。
憎しみは人間不信につながり、他人を信用してはいけない、という絶対的な不文律が生まれる。信用できるのは“金”だけである。
金がないと無実でも有罪になり、金があれば、人を殺しても無罪になる。
時代は下り、フンセン、ラナリツトの支配になったが、一度出来上がったセオリーは、そう簡単に変えられるものではない。
中学校教師のイザワケイゴは、以前この国で出会ったタオという美少女の面影を求めて再度カンボジアにわたるが、多少の義侠心を出したばかりに逮捕されてしまう。
彼は手持ちの金を騙し取られ、したがってまともな裁判を受けることもできず、10年以上の実刑判決を言い渡される。
その後、脱獄を試みるが失敗。それでもめげずに脱出する手立てを考える。
人間とは、何と愚かで弱い生き物なのか。
著者の実体験がベースにあるだけに、真に迫ってくる一冊である。




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