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2012.12.5
聖域
【著者】篠田 節子 【装丁】講談社文庫418頁
【価格】667円+税 【発行】1997年8月
山稜出版社に勤める実藤が、「ウィークリージャパン」担当から文芸誌「山稜」編集部に異動したのは、「山稜」の赤字がかさみ、月刊が季刊に変わった時期であった。
もともと実藤は、文芸編集の仕事を希望して7年前にこの会社に入社した。30歳を間近にして、ようやく希望のセクションへの異動となったのだが、掲載予定の原稿はいずれも斬新さに欠け、読者に訴えかけるものがなく彼を失望させるものばかりであった。かつて同社の看板であった「山稜」が、いまや発行部数三千部にまで落ち込んでいるのもむべなるかな、といったところである。
実藤の異動は、前任の篠原が突然退職したためである。机も荷物もそのままだ。
実藤はやむをえず、篠原の残していった荷物を整理するが、その中から古びた原稿の束を発見する。
ここから彼の住む世界が一変していく。
実藤が見つけた600枚弱の原稿は、8世紀末の東北地方を舞台にした大作である。中央集権国家の蝦夷征伐に伴って送り込まれた僧の波乱に満ちた半生、稲作文化と狩猟文化、聖と俗、民族宗教と組織化された宗教など、いくつもの対立を内包しながら物語が進んでいくのだが、惜しむらくは未完のままだ。
この物語に魅了された実藤は、物語を完成させるべく作者・水名川泉の消息をつきとめようとするが、これが思ったより容易ではない。
原稿を持っていた篠原も、かつて水名川泉と縁のあった作家・三木も、こと泉のことになると口が重い。
果たして泉は生きているのか亡くなっているのか、未完の小説は完成させることができるのか。
生者とは、死者とは、一体何者だ。そもそも人間の存在とは・・・。
あまりにも哲学的な命題を含んだ難問を、著者はエンターテイメントという形で提示している。
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