このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

2012.12.15

文庫ライブラリ

空飛ぶタイヤ

【著者】池井戸 潤     【装丁】講談社文庫(上)470頁(下)436頁
【価格】(上)(下)各648円+税  【発行】2009年9月

赤松徳郎は32歳のとき、父が倒れたのを機に父経営の赤松運送へ入社し、社長職を継ぐことになった。
赤松運送は、トラック80台、年商7億、従業員90名の規模で、世田谷区等々力に事業所をおく中小企業だ。中小企業経営は息を抜く暇がない。取引先や古参社員の離反、売上げの減少、コストの増大など、会社経営は厳しいが、なんとか乗り切ってきた。
その赤松が、最大のピンチに陥る事故が発生した。
トラックのタイヤが外れ、歩道を歩いていた主婦を直撃して死亡させたのだ。メーカーのホープ自動車は部品を検査し、警察に対して「整備不良」の報告をした。これをもとに赤松運送は家宅捜索をうけ、容疑者扱いを受ける。しかし、整備記録から不備は見当たらず、警察も逮捕に踏み切れない。
赤松の不審は、ホープ自動車に向けられた。果たして事故は本当に整備不良なのか。製品そのものの欠陥はないのか。ホープ自動車は旧財閥系グループの一企業で、ホープ重工から分離して設立された。かつて「リコール隠し」で問題になり、業績を著しく低下させた実績がある。
まさかまた、「リコール隠し」をしているのではないか。赤松の疑念は深まるばかりである。
赤松は、執念ともいうべき意気で独自に調査し、この問題へ立ち向かった。
しかし、ホープ自動車の応対は横柄を極め、事故を起こしたことにまったく反省がなく真剣に取り組もうとしない。
巨大企業を相手に戦いを挑む赤松の姿は爽快だ。強いものに押さえつけられている庶民は溜飲を下げる思いだが、いつも正しい者が勝つとは限らない。
覚悟が身を結ぶとは限らないのが、この世の切ないところである。





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください