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聖の青春

【著者】  大崎 善生   【装丁】 講談社文庫 419頁
【価格】  648円+税  【発行】 2002年5月


重い腎臓病を抱えながら将棋に命を賭け、早世した棋士の生涯を描いたノンフィクションである。
著者は日本将棋連盟に勤め、「将棋世界」編集長の経歴を持つ。連盟退職後は作家活動に専念し、本書で新潮学芸賞を受賞した。その後、ジャンルを越えた情感あふれる物語を送り出し、読者の支持を集めている。
本書の主人公である村山聖(さとし)は昭和44年6月、広島で誕生した。ネフローゼを発症したのは、彼が5歳のときである。それから、入退院と闘病の日々が続く。
6歳のころ兄から教わった将棋に夢中になり、病院のベッドの上で本を読んで勉強した。実戦経験がほとんどないにもかかわらず、アマチュア有段者を寄せつけないほどの実力になったという。
森信雄の弟子になって奨励会に入会したのは中学生になってからである。かなり遅いスタートといえるが、とにもかくにも森との二人三脚が始まった。
昭和62年、村山は四段に昇段した。病身ながら驚異的なスピードでプロへの階段を駆け上がった。この時期、順位戦には羽生善治をはじめ、森下卓、井上慶太、佐藤康光といった俊英が名を連ねている。チャイルドブランドといわれた垢抜けたタイプの若者たちだ。
こうしたなかで、村山ひとりが異色である。NHKのテレビ将棋で見る限りでは、−−病気のせいで顔がむくんでいることもあるが−−まったく風采があがらない。
本書は村山の破天荒な日常生活を活写するとともに、将棋を通じて彼の死生観をも伝えている。
平成7年、村山はA級に昇段した。名人位への挑戦権を得ることのできるところまでやってきた。
しかし、このA級の座も膀胱癌が発症して守りきることができない。
それから再度、不屈の闘志が燃え上がるのだが・・・。
平成10年8月8日、村山聖は、「名人になる」という思いを抱きながら29歳でこの世を去った。




2010.6.19

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