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シェエラザード

【著者】 浅田 次郎  【装丁】 講談社文庫 (上)377頁 (下)386頁
【価格】(上)619円+税(下)619円+税 【発行】(上)2002年12月(下)2002年12月

金融業者の軽部順一は、宋英明と名乗る中華民国籍の男から100億円の融資の申し込みを受ける。先の大戦で沈没した「弥勒丸」という商船を引き揚げるための資金だという。
弥勒丸は昭和16年に完成し、横浜−サンフランシスコ間の太平洋航路に就航する予定だったが日米開戦によりかなわず、病院船として徴用され、戦場の島々を往来していた。
この弥勒丸に新たな任務が課せられたのは昭和20年、日本の敗戦が色濃くなってきたころである。国際赤十字の要請により、連合国軍捕虜のために救援物資を送り届けるのだ。ソ連のナホトカで物資を積み込み、大陸沿岸に寄港しながらシンガポールまでを往復する。
日本軍にしてみれば制空権も制海権も奪われ、南方部隊との連絡がままならないこの時期、安全が保障された船を運行することができる、またとないチャンスである。軍部がこの機会を見逃すはずがない。
弥勒丸の乗組員は200人。森田船長以下、戦時下にあっても国際航路のスタッフとしてのプライドを失わない。生き残りのベーカー、中島もそのひとりである。
物語は、現在と過去を行き来しながら展開する。軽部はかつての恋人と再会し、宋の正体が次第に明らかになる。
一方、弥勒丸は隠された任務のゆえに悲劇的な最後を迎えることになる。
船内に流れていたリムスキー・コルサコフの交響組曲「シェエラザード」は、もの悲しくも美しい。あたかもこの小説の主題曲のようである。
本書で賞賛されている、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団演奏の「シェエラザード」を味わってから読んでみよう。




2010.7.7

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