ベルリン飛行指令
【著者】 佐々木 譲 【装丁】 新潮文庫 543頁
【価格】 743円+税 【発行】 平成5年1月
1940年9月、ドイツはイギリス全土を攻撃できる長距離戦闘機を必要としていた。そのとき目をつけたのが日本のゼロ戦である。性能が目的にかなうものであれば、ドイツでライセンス生産をしたいという。日本はこの要請に応えることにしたが、そのためには日本からドイツへゼロ戦を2機輸送しなければならない。
このプロジェクトを中心になって進めるのが、海軍省事務官(文官)の山脇順三である。
まずは飛行ルートの選定だが、ロシアルートについてはドイツが難色を示しており採用できない。残るは中央アジア経由かインド経由となるが、中央アジアルートはまったく未知で、途中で補給ができる見通しがたたない。一方、インドルートはイギリス軍が駐留しており、三国同盟がなったからには通過を認められるはずがない。とはいえ、結局はインドルートを突破するしか方法はないだろう、との結論に至る。ゼロ戦の航続距離を2000kmとしても、ドイツまでの間には何箇所もの中継基地が必要だ。果たしてそんなことが可能だろうか。
乗員の人選も難関である。この困難な任務を引き受ける者がいるだろうか。しかも卓越した操縦技術の持ち主で、危機に対応できる判断力を持った者でなければならない。
選ばれたのは安藤啓一大尉と乾恭平一空曹。安藤大尉はアメリカ人の母を持つ。乾一空曹は機械に詳しい。いずれも当時の軍人とは一味違う、自由な発想の持ち主だ。軍歴は十分だが、いわば煙たがられて飛行機を取り上げられていた。
「この計画は無理だろうか」という山脇の質問に安藤が答える。
「無理とはいいません。でも、無意味です。愚かな計画です」
この二人が横須賀から、遥かベルリンの灯を目指して出発する。