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東京タワー −オカンとボクと、時々、オトン−

【著者】 リリー・フランキー  【装丁】 新潮文庫 522頁 
【価格】 705円+税   【発行】 平成22年7月

2005年に刊行され、200万部以上を売り上げたベストセラーの文庫版である。
書店員が選ぶ本屋大賞を受賞し、映画化され、舞台上演されるなど日本中の話題をさらった。
本書は著者の自伝であり、物心ついたときから37歳で母を失うまでの半生を綴っている。
オカンとボクは、ボクが4歳のときオトンと別居し、母の実家がある筑豊に住むことになった。別居しながらも離婚することはなく、オトンとの縁は切れることがない。何かの折に行き会うような関係が続く。
高校は大分へ行くことになり、オカンと別居する。大学は東京で卒業してからも東京暮らし。この間、オカンはひとりガンと闘っていた。
100人いれば100人の人生がある。そういう意味では、自伝を書けば誰とも違う唯一の物語ができるはずである。ところが、そうした物語がすべて興味深いものとなるかといえば、そうとは限らない。
自伝を他人に読んでもらうためにはいくつかの要素が必要で、この本はそうした要素を十分備えているからこそ大ヒットしたのだろう。
読者をひきつけるためには、読者が経験できないような人生であると同時に、読者が共感できる人生であることが大切だ。著者の人生は特異なものに見えながら、母子の関係は私たちが望む方向へと近づいていく。
本書をとりわけ魅力的にしているのは、各項ごとに詩的に記されている著者の感慨である。これがすべからく秀逸で、思わずうなずいてしまう。
「孤独は、その人の感傷を気持ち良く酔わせ、漠然とした不安は、夢を語るにおいて一番必要な肴(さかな)になる」等々。
また、自分たちの生活を卑下するでもなく、誇張するでもない姿勢が読者の好感をえるのであろう。
ここ数年か数十年の間に家族の形が変わってきた。しかし、変えてはいけないものが世の中にある。
そんなことを教えてくれる一冊である。





2010.8.21

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