太陽の子
【著者】 灰谷 健次郎 【装丁】 角川文庫 430頁
【価格】 648円+税 【発行】 平成10年6月
ふうちゃんは神戸の港町に住む小学校6年生。明るく素直で利発な女の子だ。沖縄出身のおとうさんとおかあさんは「てだのふあ・おきなわ亭」という沖縄料理の店を経営している。とはいえ、おとうさんは心の病を抱えていて、実際に店を切り盛りしているのはおかあさんだ。店には毎晩、沖縄に縁のある人たちがたくさん集まる。「てだのふあ」は沖縄の言葉で太陽の子という意味である。
ふうちゃんは、ふとしたことから沖縄生まれのキヨシという少年と知り合い、住むところのないキヨシをこの店で雇うことになった。
おとうさんとおかあさん、店の常連さん、キヨシ、そして担任の梶山先生。ふうちゃんは心優しい大勢の人に囲まれながらも、なぜか肝心なことが欠けているような気がしてきた。
おとうさんの病気の原因は何なのか、キヨシはなぜ時として投げやりな態度を見せるのか。
悲しい話はしたくない、という気持ちは分かるものの、知らずにすませることではなさそうだ。
本書が刊行された1978年(昭53)は、沖縄返還から6年しか経っていない。にもかかわらず、すでにこの時点で沖縄は様々な問題を抱えていた。
灰谷健次郎(1934−2006)は子どもたちに向けて、戦後の沖縄の人々の思いを描くことにより沖縄戦の真実を伝え、人間として大切なものを考えさせかったのだろう。
ふうちゃんはノートに詩を書いている。
かなしいことがあったら ひとをうらまないこと
かなしいことがあったら しばらくひとりぼっちになること
かなしいことがあったら ひっそり考えること
ふうちゃんの優しさは子どもたちの優しさだ。
もちろん、これは作者自身が子どもたちを見つめる眼差しの優しさでもある。