夜明けの街で
【著者】 東野 圭吾 【装丁】 角川文庫 391頁
【価格】 629円+税 【発行】 平成22年7月
2007年に刊行された単行本の文庫化である。
15年前に起きた殺人事件をからめながら話が進むが、主題は結婚生活の肯定であり、不倫がいかにソロバンにあわないか、という事例研究である。
「自分の長所をアピールし合うのが恋愛なら、短所をさらけ出し合うのが結婚だ。もう相手を失う心配がないから、恋愛中みたいに、必死で相手を振り向かせようと努力することもない」(本文から)。
確かに、結婚はマンネリズムの極みであろう。昨日、今日、明日と変わらぬ日々が続き、夫婦で歳をとってゆく。
一方、不倫は家庭生活では得られない緊張と高揚をもたらしてくれる刺激的な行為だ。
その代償としてすべてを失うことにもなりかねず、決してよい結末にならないことは、主人公・渡部も十分承知しているのだが、承知していながら彼は、派遣社員の秋葉と深い中になった。ところがいざ不倫を続けるとなると、これがなかなか大変だ。妻にはばれないように時間を捻出し、愛人にはいいところを見せなければならない。おそらく金銭的にもかなり無理をしたことだろう。
本書を読みながら、なぜか竹内まりやの「家に帰ろう」の詩とメロディーが浮かんできた。
本書では、職業人の夫の勝手な言い分が並んでいるが、妻だってルーティンな仕事の繰り返しが面白いわけがない。それでも安定した家庭を維持するためには、夫のわがままに目をつむらざるをえない。
そうしてまでも、家庭というものは守ったほうがよい、というのが結論だ。
さて、前述した殺人事件の件である。秋葉の父親の愛人が殺されたのだが、秋葉はその容疑者とされている。15年の時効を迎え事件の真相が明らかになるという筋書きで、これにまた不倫がからんでくる。
やはり不倫はよくない、という話である。