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シリウスの道
【著者】藤原 伊織 【装丁】文春文庫 (上)351頁 (下)329頁
【価格】(上下とも) 514円+税 【発行】(上下とも) 2006年12月
2007年(平19)、59歳で早世した藤原伊織の傑作である。
作者は電通社員とハードボイルド作家という二足の草鞋を履きこなしていたが2002年に退社。その後、この作品を発表した。
本書の主人公・辰村裕介は38歳。東邦広告京橋営業局5部の副部長である。
この5部に18億円にのぼる広告コンペの話が舞い込んできた。大東電機が設立するネット証券の広告宣伝企画である。そもそも大東電機は銀座営業局の主要顧客だが、どういうわけか今回は京橋営業局が指名された。
京橋5部では美貌の女性部長・立花英子を中心にチームをつくり、コンペに向けて作業に取り組む。スタッフは辰村副部長のほかは中途入社1年目、25歳の戸塚英明、派遣社員でデイトレードではセミプロ級の平野由佳とユニークだ。
ところで、辰村には大阪での中学生時代、勝哉と明子という幼馴染みがいて3人だけの秘密がある。その後別々の道を歩みお互い連絡をとることもなかったのだが、25年経ったいま、何ゆえかその秘密が暴露されかけ、3人が再会するきっかけになる。
広告コンペを横軸に、3人の秘密を縦軸にした構成で物語は展開する。
それにしても広告業界の内幕が垣間見えるのは面白い。人間関係は類型的で、登場人物も善玉、悪玉がはっきりしていて気持ちがよい。おそらく著者は、「辰村に自分を投影しているのではないか」と思わせたいのだろう。
作者は2005年(平17)、食道癌であることを公表していた。
ホットドッグしかないバーは「テロリストのパラソル」の延長線。お気に入りのバーを持ち出してきたのは、これからの短い作家生活を予感したからだろうか。
2010.9.13
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