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最悪
【著者】 奥田 英朗 【装丁】 講談社文庫 656頁
【価格】 876円+税 【発行】 2002年9月
古くからの町工場と新しい住宅が混在する“北川崎”が舞台である。縁もゆかりもない3人が、あたかも強力な磁石に吸い寄せられるように、やがて起きる事件の主人公として行動を共にすることになる。
事件が起きるまでの過程、すなわちこの3人の暮らしぶりと凋落の道程こそが、この物語の聞かせどころといえよう。
川谷信次郎は零細な金属加工業者である。納入先からは厳しい納期と安い加工賃を押し付けられ、土日もつぶして働いている。加えて向かいのマンションの住民から工場騒音について苦情があり、悩みはつきない。
都市銀行の北川崎支店に勤める藤崎みどりは憂鬱な毎日を送っている。職場の人間関係、というより銀行の体質そのものが肌に合わない。家に帰れば学校をやめてふらふらしている妹も頭痛の種だ。
野村和也はパチンコとカツアゲでその日暮らしをしている。チンピラと組んで工場からトルエンを盗んだのがきっかけでやくざに脅され、にっちもさっちもいかなくなる。
3人がそれぞれ、悪い方向へ向かっていく日常が同時並行で描かれる。
その様は読者の日常とは無縁のようにみえながら、あるいはつい隣で起きているようにも思える。
本書が、現代社会の一面を活写していることは間違いないだろう。
2010.9.24
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