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ストロボ


【著者】 真保 裕一 【装丁】 新潮文庫 340頁
【価格】 514円+税 【発行】 平成15年5月

プロカメラマンの回想録である。
最初に登場する第5章(遺影)が50歳の現在の姿であり、アルバムをさかのぼるように人生の転機となったシーンが逆進する。
以下、第4章(暗室)42歳、第3章(ストロボ)37歳、第2章(一瞬)31歳、第1章(卒業写真)22歳、といった具合である。
美人であるだけに実力と注目度のギャップに悩む女性カメラマン、かつて一世を風靡した先輩の凋落ぶり、妻との出会い、青春時代の孤独と蹉跌などが走馬灯のように思い出される。構成だけみると、いかにも奇をてらったように感じるが、私たちが人生を振り返るとき、時間軸とは逆に思い出をたどる方がむしろ自然の道程かも知れない。あのときはこうだった、このときはああだった、といいながら自分の原点ともいうべき場所へ行き着くのだ。
そして、当時の純な気持ちと現在の有り様を比べため息をつくのだが、時間を取り戻すことはできない。世の中の仕組みの中で成長した自分は、こうした様々な思いまでも飲み込んで“今”を肯定せざるをえないのが実情だ。
ある程度の年齢に達した者が、ほろ苦さを共感できる一冊である。



2010.10.6

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