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黒船

【著者】 吉村 昭   【装丁】 中公文庫 448頁
【価格】 876円+税   【発行】 1994年6月

幕末から明治への転換期、時代は自らが必要とする多くの人物を排出した。それぞれの人物がそれぞれの役割に取り組み、新たな世の中をつくりあげた。
本書は、江戸幕府で長崎オランダ通詞(通訳・和蘭訳の職)をしていた堀達之助に視点をあてて書かれた、明治維新史である。
話は嘉永6年(1853)の黒船来航からはじまる。
当時、達之助は江戸へ出張を命ぜられ、浦賀詰となっていた。ペリー艦隊との折衝にあたり通訳を務めるのだが、なにせアメリカ人との交渉は未経験である。英会話力が十分でないため、オランダ語を介しての二段階の通訳ということになる。
通詞の仕事は、双方の意思が相違なく伝わるよう正確さが第一義である。間違っても自分の考えを差し挟むことがあってはならない。達之助の生き方は通詞としての仕事そのもので、自らの考えを表出することはなかったのだが、ただ一度、自分の判断で外国人の書状を握りこんだがために4年近く牢生活を送ることになった。
後に彼は、能力が惜しまれて復活を果たし相応の地位をえるのだが、結果はどうも満足のゆくものではなかったようだ。
現代のサラリーマンにも通じるが、とくに専門職の場合、正当な評価を受けられないために不遇をかこつ、という例は珍しくない。達之助の後年も正にそうで、職を辞し、過去の楽しかった思い出だけを振り返る晩年になってしまった。
団塊世代の我々にとっても他人事ではない。現役を離れ、長い(予定の)老後を迎えようとしている今、さて、どうあるべきだろう。



2010.4.7

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